「歌う銭湯」の銭湯ぐらし—江本祐介インタビュー

おはなし

2017.12.18

text by 加藤夏海

「歌う銭湯」として、小杉湯の浴室で行うアコースティックイベント「フォークバンケット」を企画・運営する江本祐介。普段はCM音楽の制作や楽曲提供などを行い、Enjoy Music Clubではトラックと歌とラップを担当している。そんな江本は、小杉湯に隣接するアパート「湯パート」の住人でもあり、小杉湯の深夜清掃バイトもしている。江本にとって銭湯のある暮らしとはどのようなものなのか。小杉湯との出会いから話を聞いた。

仲良くなりたい人がいたら、銭湯へ

愛猫・こめちゃん

もともと小杉湯には、僕が高円寺の(別の)風呂なしアパートに住んでいた頃からお世話になっているんですよ。当時は週に2~3回通っていましたね。銭湯は1回入るのに460円かかるので、ちょっと贅沢だなと思っていて、必ず1時間は湯船に浸かってました(笑) あ、ちなみに小杉湯に行かない日は、100円のコインシャワーを浴びてました!

地元の埼玉を離れて、一人で高円寺に住みはじめた当時は東京に友だちが誰もいなくて、1から自分の生活を築かないといけない時期でした。そんなとき、あるイベントで知り合った人と、住んでる場所が近いことが発覚したんです。仲良くなりたかったけど、友だちになる前の段階は「飲み行こう」って誘うのもちょっと勇気がいりますから……。

そのとき、「銭湯に誘ってみよう!」と思いついたんですよ。相手も風呂なしアパートに住んでいたんで、いい口実になったんです(笑) 文字通り「裸のつきあい」になってしまうと強いですよね。銭湯で湯船に浸かりながら話すとすぐに仲良くなれました。

「湯パート」に住んでからは毎日銭湯に入っていますが、それ以前から僕にとって銭湯は日常。何か特別なもの、とかではないっていうか。銭湯という日常の中に誘い込んでしまったからこそ、その友だちとも打ち解けあうことができたのかもしれない。仲良くなりたい人がいたら、銭湯に誘ってみるのもいいかも。

宵越しの金は持たない—深夜清掃

深夜清掃のバイトは2011年頃からやってます。もう6年くらいかあ。小杉湯のお客さんとして通っていたときに、たまたま「バイト募集」のチラシを見つけて応募しました。当時は駆け出しだったから、お金が欲しくてやっていましたね。

深夜清掃は小杉湯が閉店する1時半頃からはじめます。まずはエレクトリックポリッシャーっていう機械で床を洗浄。こいつがなかなか重くて、最初は格闘しましたが、今ではすっかり操っています。ちなみに、ポリッシャーのブラシ部分も毎日洗いますよ。

床を磨いたら、今度はクレンザーで洗面台のタイルをたわしを使って洗います。あとは鏡もきちんと洗う。冬の掃除はいいんですけど、夏は暑くてたまらないです。掃除が終わったら汗がにじみ出ていて、風呂に入りたくなります(笑)

しっかり床が磨けたら、湯船のお湯を使って流します。水が足りなくなるってことはないので、入念に流します。深夜清掃のバイトは1回に2人で入るんですが、会話はあまりないです。黙々とやります。でも、自然と分業できているんですよね~。

それから、このタイミングで濾過器を洗浄します。風呂のお湯自体は毎日抜いて新しくしているので濾過器で風呂のお湯を濾過するんじゃないですよ。濾過器のフィルターを洗います。

次に、浴槽の洗浄です。基本的には上から3つ目までのタイルを洗いますが、水曜日は次の日が定休日なので、底まで全部洗うようにしています。ミルク風呂だけは特別に毎日、底まで洗います。ミルク風呂の粉末が底に沈殿して、汚れやすくなるんですね。

こんな感じで、床から浴槽まで洗って、脱衣場にあるマットを干して、タオルをたたんだら終了です。だいたい3時には終わるので、1時間半かけて毎日掃除しています。

深夜清掃バイトの給料は手渡しで即日3,000円。僕はすぐコンビニに行って、3,000円分買い込みます。次の日の朝ごはんはもちろん、お酒とか、お菓子とか。ここは、ぱあっと使おうと思って使い切りますね。宵越しの金は持たないっていう。

深夜清掃バイトをはじめた当時と違って、今はバイトで稼ぐ必要もないから……「そういえば、なんで深夜清掃やってるんだろう」って考えたんですけど、掃除してたら佑介さん(小杉湯店主・平松佑介)とも話せるし、運動にもなるしと思って。要は理由がないんですけど、もう習慣になってるんですよね。

杉並区で一番ストレスのない男

「湯パート」に住んでからは、朝11時に起きて、曲をつくり、15時30分に小杉湯が開くのですぐに入って、また制作。深夜1時半になったら、深夜清掃のバイトをして午前4時くらいに寝ます。

昼間の明るい時間に風呂に入るのはいいですよ。ちょうど曲づくりが煮詰まってきているから、一度風呂に入って頭の整理をするんです。曲を作るのに煮詰まる瞬間があるんですが、風呂に入って考えると割とスムーズに考えがまとまるので。

前までは散歩しながら曲を考えていたり、自転車に乗りながら曲を考えているときもありました。自転車だったら歌っていて、人とすれ違っても一瞬だから、恥ずかしくないしって思って。まあ、でも今は風呂がかなり集中できるので、銭湯で曲のことを考えてます。

最近はありがたいことに仕事をいただけるようになって、仕事が増えた分、効率良く仕事をしなくちゃいけないんですが、僕の場合は会社員の人とは違って通勤もないし、仕事のスイッチを入れるものがないんですね。

だから、風呂に入ることで頭の中を整理するとともに、スイッチを入れてやる気を出す。仕事のモチベーションを維持することって、フリーランスの仕事をしている人には必ずつきまとう悩みだと思います。フリーランスで仕事をしている人とか、クリエイティブ系の職種の人にはおすすめしたい。銭湯いいですよ。銭湯。

今は大好きな音楽で仕事もできているし、バイト先の小杉湯でも自主企画のライブ「フォークバンケット」もできてる。毎日銭湯にも入れて、杉並区で一番ストレスがないと思います(笑) 自分が想像していた以上に、幸せな環境にいる気がするんですよね。

「フォークバンケット」も回数を重ねてきて、最初はたしか2012年の夏だったから……もう始めてから5年は経つんですね。初回からマイクを通さずに生音で歌うことを決めているんですが、いつも感じるのは音の反響の良さ。歌い終わった後は風呂上がりみたいな気分になるんですよね。なんでなのか、理由を考えてみると、音がタイルに反射して響いて、上に抜けていく感じが風呂に入っている気持ち良さに似ているからなんじゃないかと。

それから、お客さんとの距離が近いことも銭湯で歌うことの良いところ。自然の音の反響だけしかないからこそ、ちょっとした物音もお客さんと共有できて、同じ空間にいるんだなあというのを感じます。そのぶん緊張もするんですけどね(笑) まだ「フォークバンケット」に参加したことがない方がいらっしゃいましたら、ぜひ遊びに来てください!

執筆

加藤 夏海

NATSUMI KATO

編集者

湯船で知らん人の会話を聞くのが好きです。最近のお気に入りはジョージ・ワシントンが入歯だったという話。