【旅する銭湯便り】銭湯で職業体験 〜富山県「観音湯」〜

おはなし

2017.12.11

text by 大野輝

「旅する銭湯」の大野輝が、富山県の銭湯「観音湯」の1日インターンシップに参加してきました。

銭湯の魅力を届けるために、日本各地を旅しながら移動式足湯を提供する「旅する銭湯」。

今回は偶然インターネットで見つけた「仕事汚れが落ちない都会にサラバ。町にたった1つの銭湯『観音湯』の後継ぎを本気で募集」の文言に惹かれ、インターンシップに応募しました。選考過程の自己PRで、「後継ぎにはなれないが、銭湯で働いてみたい!」という気持ちを率直に伝えたところ、快く受け入れてくれました。

インターンシップは、風呂場掃除、竈(かまど)焚き、番台、そして店主との対談という流れ。実際に銭湯で職業体験をすることで、利用者目線では気がつかなかった銭湯の仕事の大変さや魅力を体感することができました。

町内唯一の銭湯、今後も守っていきたい

観音湯は創業58年の歴史を持つ、富山県入善町で唯一の銭湯。「お客さんのためにも銭湯を残していきたいが、体力的に後5年くらいが限界だな」と語るのは、今年77歳を迎えた観音湯店主の上田さんです。

周りの銭湯が廃業してゆく中、奥さまと夫婦二人三脚で銭湯経営を続けてこられた上田さん。体力的な問題から引退を意識する一方で地域の利用者からの「続けてほしい」という声を受け、「自身が引退した後も誰かに観音湯を続けてもらいたい」という思いがつのった結果、街の商工会の協力の元、観音湯の後継ぎを探すインターンシップが始められたのでした。

銭湯の仕事の大変さと魅力に気づく

インターンシップの体験内容は主に、始業前の掃除と竈焚き。そして今回は営業中の番台も経験させてもらいました。

午前中は10時から2時間半をかけて、上田さんに指導してもらいながら風呂場の掃除をしました。桶や椅子はスポンジで、浴槽・床やカランはブラシで丁寧に磨きました。また掃除で使う水は、環境面やコスト面に配慮して、前日の残り湯を再利用します。

上田さんは、掃除を銭湯経営で最も大切な作業だと考えていて、あえて風呂場のタイルを汚れが目立つ白色にすることで、掃除を徹底できるようにしています。すべてをひとつひとつ手作業で行うため、掃除は腰や膝に負荷がかかる大変な仕事でした。

午後は1時間ほどの昼食休憩を取った後に、お湯を張るために竈焚きをしました。上田さん自らが集めた薪を1本ずつ燃やしていき、竈の温度を80度まで上昇させました。薪は基本的に近所の人から譲ってもらった廃材を使っていて、ここにも上田さんの環境面とコスト面に対する配慮が伺えます。

ただ、薪での竈焚きは、ガスと比較して多くの手間がかかります。雨が降る日は薪が湿気らないように保管場所に気を使う必要があり、また焚いている最中は温度が一定に保たれるように常に竈から目が離せません。竈の温度が上がるにつれて、灼熱の中での作業となっていき、焚き終えた後は汗びっしょりでした。

これで始業準備はすべて完了です。上田さんはハードな作業の後も満面の笑みで疲れを一切見せませんでしたが、毎日これらの作業を1人で行っているというのは驚きです。銭湯の仕事には、見えないところに大変な作業があることに気づきました。

観音湯の営業時間は午後3時から午後11時までです。今回はそのうちの約1時間、特別に番台を経験させてもらいました。

開店と同時に常連のお客さん達が続々と入ってきました。「いらっしゃいませ」と声を掛けると、「新入りかー?」と話しかけてくれる男性客や、「どっから来た?」と声をかけてくれる女性客がいました。

また、前夜にお世話になった近所の居酒屋の店主が「全然似合っとらんな」と言いながら入浴しに来てくれました。番台でのお客さん達との会話はとても楽しく、これからもこの場所に観音湯があり続けてほしいと思いました。同時に、「地域の交流の場」という銭湯の入浴以外の大切な役割を強く実感しました。

インターンシップ後に、上田さんに「この体験を記事で紹介したい」とお願いしたところ、快諾してもらい、この記事を書くことができました。また帰り際には果物のお土産をもらうなど、上田さんの優しさに感謝しっぱなしの1日でした。

そんな上田さんが経営する観音湯。素敵な人たちが集まる素敵な場所でした。お風呂も、サウナ・電気風呂・薬湯・ジェット風呂・水風呂などが完備されていて、とても気持ちが良かったです。

皆さんもいちど、入浴や職業体験をしに足を運んでみてはいかがでしょうか。

観音湯について

住所
〒939-0626 下新川郡入善町入膳5050-1
電話番号
0765-74-1126
営業時間
15:00~23:00
定休日
水曜日
特徴
最近リニューアルを行い、手すりをつけるなどバリアフリー化にも配慮。特におすすめは遠赤外線サウナとエステジェットバス。女性客に大人気だそう。

執筆

大野 輝

HIKARU ONO

旅人

1994年生まれ。神奈川県出身。 大学3年次に米国オレゴン州のポートランドに1年間の交換留学をし、グラフィックデザインや写真を学ぶ。ヒッチハイクの旅が好きで、これまでに3カ国で計50台以上の車に乗せてもらった経験をもつ。 2017年9月に早稲田大学を卒業後、10月10日の銭湯の日より、全国に銭湯の癒しを届ける旅に出ている。