銭湯はオンにもオフにも切り替えられるとても神聖な場所ーシャムキャッツ・菅原慎一インタビュー

おはなし

2017.11.22

text by 雨田宇以

さる2017年夏、高円寺小杉湯にて行われた音楽イベント「第5回フォークバンケット」。銭湯ぐらし「歌う銭湯」の江本佑介が定期的に企画・実行しているライブで、今もっとも流行に敏感な若者があちこちから集う。電気を使わずに生身で歌い上げた声は銭湯の天井まで響き、お客さんたちはうっとりと聴き惚れていた。さて、今回は出演者であるシャムキャッツのギタリスト・菅原慎一さんに銭湯ライブの感想をインタビューしてみた。

フライヤーデザイン:玉川ノンちゃん

——フォークバンケットはいかがでしたか?

銭湯でのライブは初めてでしたが、まちがいなく、これまでで一番いい音響でした。建築構造や材料が大きいのかな。建て物は木造で、浴室はタイルですよね。とくに天井が高くてアール型になっているのでよく響くんです。音を反響させるために建てたわけじゃないはずなのに、銭湯と音楽がこんなにも相性がいいなんてものすごい発見ですよね(笑)。この構造のおかげで電気を使う機材が必要ないこともライブの特色として大きい。じつは、ぼくらは2011年に“電気を使わないアコースティックライブ”を下北沢のライブハウスでやったことがあって。ちょうど3.11が起きた直後でした。そこにお客さんとして来ていたのが、今回のフォークバンケット企画者の江本祐介くんです。

シャムキャッツ・菅原慎一さんの歌声が観客を包み込む。

——そのときはライブハウスでの電気なしライブですね。開催のきっかけはなんだったのでしょう。

3.11の後、なんかやらなきゃと思ったんです。ぼくらはミュージシャンだからやっぱりライブしようって。「アコギなら電気使わないね」って。ちょうど「渚」というシングルを出したタイミングで、「渚」のMVが海に入っていく内容だったので、公開を取り下げたんです。せっかく気合い入れたシングルだったのに悔しい、という気持ちもあったかもしれません。でも、その時の電気なしライブがこうして形を変えてつながっているのはいいですよね。

本当に、歌うことってすごく本来的な行為です。シャムキャッツは歌を大事にするバンドなので、そのスタイルとも合っていたと思います。ギター1本と歌声があればいい。……と、言い切ってしまうとベースとドラムが悲しむかもしれませんが(笑)。お客さんも「今日はアコースティックセットだから歌がよく聞こえました」と言ってくれて。今後の野望として、銭湯で電気を使ったライブもしてみたい。ベースもドラムも入れて銭湯でバンドやったら絶対いいと思うんです。そういえば、教会でレコーディングするアーティストもいます。銭湯と教会の設計って、すこし似てませんか? 天井が高くて、光が差し込んで。

主催の江本祐介。営業前なので、お湯が張られている!

——生身の体とギター1本でその場を生き生きとさせるのは本当にすごいと感じました。銭湯はお好きですか?

好きですね~。ぼく、神楽坂の銭湯によく行くんです。お茶の水と秋葉原の中間くらいにある銭湯に週3回くらい通っていたことも。銭湯入って、カレー食べて、そのあとスタジオに行くんです。体のコンディションが整いますよ。(バンドメンバーの)夏目も銭湯に入ってから来ることがあって、匂いでわかるんです。「あ、今日入ってから来たな」と(笑)。もはやこれは音楽業界で流行りつつあるスタイルと断言してもいいレベルかもしれない(笑)。できることなら毎回ライブ前に銭湯に入りたいですね。血がめぐって声も出るようになるし、いいことだらけ。

たまに遠征に行ったときも、ホテルのお風呂は入らずに地元の銭湯に行ったりもします。この間も、長野の松本市にある銭湯に寄ったんですがこれがすごくいい感じで。ガラガラと開けてこんにちは、って入るじゃないですか。すると可愛らしいおばあちゃんが番台に座っていて。石鹸やシャンプーを持っていなかったぼくらに「ふつうはみんな持ってくるもんだよ」と言いながらも貸し出してくれて、銭湯ならではの人情を感じました。

毎月、江本祐介が自分の好きなミュージシャンを呼んで開催するそうだ。

——作曲をお風呂の中ですることはありますか。

ありますね。歌っていて気持ちが良いしリラックス出来るから、自然とアイディアが浮かぶんです。シャワー浴びながら歌の練習をしたりもします。自分の部屋を題材にして作った曲があって、それは部屋の中を歩き回って作りました。部屋って自分の思いがしみついた場所なので、自然とことばがでてくるというか。

ちょっと話がそれますが、ぼくは居場所を題材にした曲作りをよくします。とくに地元に対する想いとシャムキャッツへの想いにはけっこう重なる所があって。地元に帰って感じたのは、友だちって大事だよなということ。友だちって、場所や時間でどんどん変化するけど、かつて友だちだった人もこの先また同じような関係に戻れるかもしれないし、そうじゃないかもしれない。幼稚園のころ毎日あたりまえのように遊んでいたほど仲が良かったやつが、大人になって会うとどこかギコチない。人間関係がアップデートされるというか、その感覚がすごくおもしろくて。バンドも同じで、メンバーの関係性が微妙に変わりながら有機物みたいに続いていくんだなというのはいつも感じています。

——夏目さんとは幼稚園から一緒だそうですね。

幼稚園では、彼はとなりのクラスのドッジボールが強いわんぱく小僧で、ぼくはどちらかというと内向的。テリトリーは違ったのに、小学生の時におたがい切手集めが趣味ということが発覚して(笑)。それ以来の友人です。すこし恥ずかしい話ですが、今回の新曲は恋の歌と言われることが多いのですが、じつは友だち(夏目)に対して歌っている部分が大きかったりする。もちろん夏目だけじゃなく、友だちだったり、親だったり、場所だったり。そういう自分を作ってきたものへの想いが、今作にはいちばん強く出ているかもしれません。

シャムキャッツ・夏目知幸さんは、2017年5月3日開催の小杉湯フェスに出演。

——銭湯という場所への想いはなにかありますか。

ぼくが銭湯に求めるものは、リセットです。疲れやモヤモヤを剥がすというか、体のコンディションがめちゃめちゃ良くなりますから。あとは、コミュニケーション。銭湯って、やや距離感のある人と入ると確実に仲良くなれる。入浴という行為だけだったらスーパー銭湯もサウナもありますが、銭湯はやっぱり特別です。スーパー銭湯は複合型商業施設のイメージで、それはそれでいいんだけど、でもやっぱりぼくは小さいパン屋みたいなほうが好き。そこで働いている人の意志が感じられてあったかい気持ちになれるんです。小杉湯の漫画コーナーにある妙に凝った手書きのポップとか、愛を感じますよね。

——そもそも入浴には禊の意味があって、宗教的な行為でもあります。さきほど、求めているものにリセットとおっしゃったのは、まさにそうしたものもあるのかなと。

銭湯には、祭りが始まる前のリセットと、終わったあとのリセットの両方の意味がある気がします。最近おもしろい話を聞きました。人には三大欲求のほかに4つ目の欲求があって、それが「祭りの欲求」だと。なるほどなあ、と思いました。たしかにライブも祭りですし、グルーヴ感みたいなものを求めてみんな来てくれるはずです。ワーッと賑やかにならなくても自然に祭りの体温になっていってゾーンに入るケースもありますよね。銭湯はオンにもオフにも切り替えられる、とても神聖な場所です。こうしてみると、ぼく本当に銭湯が好きなんですね。

銭湯の話題になると止まらなくなる菅原慎一さん。

——こだわりの銭湯グッズは?

マイ手ぬぐい。すぐに乾くし、冬は防寒になるし、夏は水をちょっとつけて振り回せばクーラーになります。手ぬぐいはアイディア次第でなんにでもなる。あ、怪我したときは包帯にもなります(笑)。遠征でも手ぬぐいだけは必ず持っていきます。手ぬぐいマスターです。

(シャムキャッツ・菅原慎一 2017年6月18日小杉湯にて)

執筆

雨田 宇以

UI AMETA

本の編集の仕事をしています。朝と夜はだいたいTBSラジオを聞いています。好きなタイプは夏目漱石と菅田将暉。