銭湯ぐらしの部屋より〜その2〜201号室・塩谷 歩波

おはなし

2018.4.20

text by 銭湯ぐらし

ゴールをあえて決めず、個人の「やりたい」を実現するための場として始まった「銭湯ぐらし」。結果的にメンバーの数だけプロジェクトが生まれ、様々な分野に対して銭湯の可能性を提示することができました。

また、「暮らしながら参加する」というプロジェクトの形は、新しい働き方や居住スタイルのあり方としても、とても興味深い事例になりました。

そんなプロジェクトを完結させるにあたり、1年間限定の「銭湯のある暮らし」を体験した「湯パート」住人たちに、その暮らしぶりや部屋のコンセプト、忘れがたいご近所物語を聞いてみました。湯パートは彼らに何を残してくれたのでしょうか。

塩谷 歩波
高円寺の銭湯・小杉湯の番頭兼イラストレーター。設計事務所で体調を崩し、休職中に銭湯に救われて「銭湯への恩返し」として銭湯イラスト「銭湯図解」を発表。番頭として働きながら、ねとらぼ「えんやの銭湯イラストめぐり」と旅の手帖「百年銭湯」で銭湯図解を連載中。好きな水風呂の温度は16度。

——まず、この部屋を使っていいよって言われたときはどう思いましたか。

私は一人暮らしじたいが初めてで。小杉湯に就職したてでいきなりこのアパートの話が来て、そういう気構えがまったくなかったんですよね。でもこのお部屋を見せてもらって、窓から銭湯が見えて、なんだか日差しもいいし銭湯の音も聞こえるし、まわりに知ってる友達もいるし、ここなら一人暮らしできると思って。

——安心感があったんですね。お部屋づくりをするときに、どんな感じにしたいと思いましたか。

とにかく初めての一人暮らしだからなにもわからなくって。とりあえずなんとか1年間暮らすことだけを考えて。だからそこまで部屋作りはできてないんですけど、もともと動物を描くのが好きなのと、「壁に絵を描く」ってことに挑戦してみたかったので、手が空いたときにちょこちょこっとクマとかリスとかシカとかを描いてみたんです。

——部屋ぜんたいがキャンバスのようで素敵ですね。

窓からシカが出てたらかわいいよねとか、窓の上に猫が歩いてたらかわいいよねって感じで、部屋の中にどういう動物がいたら可愛いか想像しながら描きました。それで続きをちょこちょこ描こうと思ったんですけど力尽きましたね(笑)。

——もっと構想があったんですか?

まぁうまいことできてはいないけども、この部屋の環境自体がすごく良くて、あんまり必要ないなと思って。

——お部屋のコンセプトは「動物」ですか?

そうですね。あと、この部屋で絵を制作することが多いので、自分が楽しく過ごせるように、好きな漫画を目線に入るところに置いたりとかして。とにかく楽しく過ごせるように。

——実際に部屋ができあがったときに感じたことはありますか。

楽しい部屋になったかなとは思っています。あまり部屋づくりしていないからなんとも言えないけれど(笑)。

——この部屋で1年くらい生活されてみて、特に印象的な思い出はありますか?

203号室のせおちゃん(編む銭湯)と仲良くて。彼女はもともと私の「銭湯図解」をSNSで見て、その絵をまとめた本を出したいって言ってくれた出版社の人なの。そこで初めて会って、すごい意気投合して友達として仲良くなっちゃった。そうやって仲良くなった子が同じアパートに住んでるのがうれしくって。

たとえば夕飯時に、せおちゃんが「おっきい大根をゲットしたからこれからイカ大根作るよ」って連絡が来て、じゃあ私は味噌汁とごはん炊いとくねって。その鍋と炊飯器もって「きたよ〜!」みたいのをやったりとか(笑)。あと寝る前に漫画を借りていくとかね。

あとは、最近「銭湯図解」で出版社のお話をいただくことが多いので、ちょっと風呂の中でその話を聞いてもらえる? って言って一緒にお風呂行ったりとか。なんかね、そういう日がすごく楽しかったかな。

あとは、205号室のえもちゃん(歌う銭湯)がフリーランスで日中アパートにいるから、私が部屋に帰るタイミングでえもちゃんが部屋から出てきたり、私が出るタイミングでえもちゃんも出るみたいなことがよくあって、廊下でちょっとした話ができるのがけっこう楽しくて。

——普通のアパートではあまりないですよね。

ありえないよね。

——ご近所さんがみんな友達で、銭湯がとなりにある暮らしをされてみてどうでしたか。

高円寺という街がいまは自分にとって地元になっています。入りたての時は一人暮らし初めてだし不安だし、「銭湯ぐらし」の仲間と仲良くなれるのかなと思っていたのですが、やっぱり道端でばったり会って話したりとか、友達ができていくことは大きかった。

隣のなおき(起す銭湯)が帰ってくるとバーン! って音がして、壁とかドーンとか鳴って、うるっさい! ってこっちもぱーんって壁を叩いたりするんですけど、そういうのを通じて周りに人がいるっていうのがけっこう安心して。このアパートを通じて高円寺の人と仲良くなって、そういうのを重ねていくことで、高円寺が自分にとって「地元化」したのが一番の経験かなと思いますね。

——素敵なことだと思います。

私はいま小杉湯で働いていて、最近は仕事が終わって小杉湯のお風呂に入って寝るんですけど、日常のONとOFFを切り替えるのがそのお風呂なんです。それができる環境が「銭湯ぐらし」のアパートだった。以前、設計事務所で働いていた頃は仕事の都合で(生活が)左右されることがとても多かったんですけど、今の生活スタイルは自分で決めてコントロールできている自覚があって。すごく生き生きしてるんです。高円寺を、自分でここを地元とするって決めた感じなんで、すべてが自分の意志でいま生きているっていう実感があって心地いいです。

—―—お部屋のこだわりポイントはありますか?

部屋じたいというよりは、過ごし方にこだわりポイントがあって。うちの父がコーヒーの焙煎屋さんをやってるんです。その父が淹れてくれたコーヒーを毎朝飲んでいて。朝そこで朝食を作って一息つきながらコーヒー飲んで、あったかい日は窓を開けて銭湯を眺める、そんな時間が一番好き。

執筆

銭湯ぐらし

SENTOGURASHI

この記事は銭湯ぐらしのメンバーが執筆しました。