「自由に、好きなものを作っていきたい」 アーティストin銭湯が創作の転機に 腹黒ピカソ×らっかインタビュー

おはなし

2018.1.29

text by べっくやちひろ

2017年6月、小杉湯隣接のアパート「湯パート」の一室に “擬似銭湯”空間が生まれました。壁と天井全面が大胆な原色で彩られた部屋に、銭湯の音場を再現した異空間。 制作者の腹黒ピカソさんとらっかさんは、アーティストが湯パートで暮らしながらで制作を行う「アーティストin銭湯」のプロジェクトに参加し、この作品を作り上げました。約1ヶ月間、湯パートに通いつめての制作活動は、2人にどんなインスピレーションをもたらしたのでしょうか。

腹黒ピカソ
1991年生まれ。赤・青・黄色の三原色のグラデーションと白黒の無彩色、決して濁ることのないパワフルな発色で脳裏に焼き付く独自の世界を描き出す。巨大キャンバスへのライブペイントや公開制作など、他者と制作過程を共に体感できる方法での表現を追求している。
らっか
DJ・実験的ライブ等の活動を経て、2016年より本格的に電子音楽を制作開始。現場では主にシンセサイザー、サンプラー、自作機材を用いたライブと、カセットテープでのDJを行う。

壁画&カセットテープで“擬似銭湯”空間づくり

――お二人は2017年6月に「湯パート」の一室で、約1ヶ月間の制作活動を行ったんですよね。

腹黒ピカソ(以下、ピカソ) はい、私は壁を大きいキャンパスに見立てて一面に絵を描いて、らっかはカセットテープを使って音楽作品をつくりました。それぞれ銭湯のモチーフや音を取り入れて、“擬似銭湯”のような空間を目指しました。

(左)腹黒ピカソさん (右)らっかさん

――すごく鮮やかでインパクトのある絵ですが、何をモチーフに描いているんでしょうか?

ピカソ 私はもともと、ライブペイントをメインに活動していて。商業施設とかお祭りとかイベントとか、いろんな場所で描くんですけど、その場の空気や来てくれた人との会話を取り入れて瞬間のインスピレーションを大切にしています。
なので湯パートでの制作も、はじめからはっきりした図面や構想を決めずに、「とにかく全力で楽しもう、でも何やろうかな?」からスタートしました。次第に銭湯からの影響を受けながら、現場で起きたハプニングも取り入れて、最終的にこの形になりました。

――らっかさんはどんな作品を?

らっか この企画で初めて自分だけの音楽作品を作りました。今まではコンピレーションに曲提供とかだけで。あと曲を作るというより、変な機械作ったりとか……。

――変な機械?

らっか 鳩サブレの缶にバネと鉄板入れて、音を出してみたり……。

――??

らっか なんでも自分で作ってみるのが好きなんです。もともと電子工作を勉強していたわけではなく、なんとなくやり始めたらハマって、自分はこれが得意かもしれない、と。作った機械を使って実験的なライブをしてみたり、今まではそんな活動をしていました。

――で、アーティストin銭湯では初めて自分の音楽作品作りにチャレンジしたと。

らっか 普通に曲を作ってもつまらないので、銭湯の音を取り入れたものにしたいと思いました。 せっかく銭湯の音が聞こえる場所にいるので、それを録音しながら曲に混ぜたり。ボイラーの音とか、「カポーン」っていう風呂桶の音とか。リアルタイムに録音しながら混ぜていかないと意味がない、だからカセットテープで作品を作ろう、ということになりました。

「銭湯がなかったら、作品が仕上がらなかったかも」

――制作期間はどんな過ごし方を?

ピカソ 毎日湯パートに通って、私は部屋の壁に絵を描きながら、らっかは横で音楽を作る。たまにここに泊まることもありました。

らっか ハードだったなあ。最初は何も降りてこなくて、「やばいな、どこに向かっていったらいいんだろう」と焦りました。
でも、行き詰まったら銭湯でお風呂に入って、その後は近くの公園までひたすら歩いて……っていうのをやってみたら、そのサイクルがすごく良いことに気づいたんです。その後で曲を作るとすごい順調なんですよね。それに気づいてからは勢いづきましたね。

――銭湯が制作活動にすごくいい形で作用したんですね。

らっか もう本当に、小杉湯がなかったらこの短期間で作品は仕上がらなかったと思う。絶対無理だった。それくらい、銭湯の影響は大きかったですね。行き詰まっても、銭湯に行くと完全にリセットされるんです。

ピカソ 壁全面に絵を描くって、すごい肉体労働なんですよ。壁紙をはがして下地を塗るだけでヘトヘトになる。でもお風呂に入ると、疲れが全部なかったことになる。特に、暑いお湯と水風呂に交互に入る交互浴を覚えてからは、疲れが取れると同時に元気とやる気とアイデアが100%になって降りてくるんですよ。湯パートにいる間、永遠に絵を描けると思いましたね。

らっか すごいノッてたよね。

ピカソ 制作期間中は、自分なりの銭湯の活用法を色々試して楽しんでいました。朝作業して、小杉湯がオープンする時間(15時半)にお風呂に入って、そのあとまた作業したり。制作に集中するために、作業の前に入るとか。疲れ切った後のご褒美として1日の終わりに入るとか。
銭湯にいろんな表情があることにも気づけました。いる人の世代とか混み具合とか、みんなの会話とか、行く時間帯によって違う。

らっか 交互浴は瞑想とかに近い感じ、個人的にはかなり心が落ち着いた状態になれるので、リフレッシュしてすぐに制作に打ち込める。風呂って夜に入るものだと思っていたけど、そうじゃない入り方に気づけたのは大きな収穫でしたね。
あと、銭湯の居心地の良さって、単純にお湯に浸かって気持ちいいだけじゃないと思うんです。普段はみんなちゃんと服を着て、それぞれの肩書きや身分があって、街中ですれ違っても挨拶しないですよね。でも銭湯では、みんな裸になって風呂に集まって話してる、その状況ってすごく不思議です。
普段ありえない環境だからこそ落ち着くのかな。肩書きとか何もなく、ピュアな感じがしますよね。

――お二人の作品にも、銭湯から着想を得たものが取り入れられているんですよね。

ピカソ 牛乳瓶を祀った作品を作ってみたり、「湯」っていう漢字を記号化したモチーフを入れたのれんを作ったり、洗い場をイメージした絵を描いたり……。銭湯モチーフは、直感的にいろんなところに取り入れました。

らっか ボイラー室とか浴場設備制御盤とか、一度銭湯の裏側を見せてもらう機会があったので、その時に銭湯の音場を生かして音のサンプリングをさせてもらって、曲に取り入れました。鍋の蓋を叩いてみたりとか。すごく良い反響するんですよ。

ピカソ そんな感じでひたすら制作を続けて、最後の1週間で追い込んで……ギリギリまで作り続けていましたね。

ピカソ 公開日は、らっかが部屋の音をリアルタイムにアレンジしてインスタレーションっぽい感じにしたのですが、真っ白の部屋がガラッと変わったタイミングだったので、いろんな人が驚いたりおもしろがったりしてくれました。

らっか とにかく変な空間にしようと思って、その場の音が四方八方から反響するようにデザインしました。一番嬉しかったのは、子どもが楽しんでくれたこと。引っ込み思案な子がすごく楽しそうにしていて、これは大成功だなって思えました。
あと、プレイヤーを持っていないのにカセットテープを買ってくれる人が結構いたこと。テープ愛好家としてはとても嬉しいですね。

――一緒に作品作りを進めて行く中で、お互いに影響されたことはありますか?

らっか うーん……どうだろう。自分のことしか考えてなかった気がする(笑)

ピカソ 私はけっこう、影響されたかなあ。壁の上の方に緑のニョキニョキを描いたんですが、これはらっかが持っていた波形を目で見る機械をモチーフに取り入れたものなんです。

らっか あ、でも、制作の終盤でこいつ(ピカソ)が見た目にわかりやすく仕上がってきたのを見たときは、めちゃめちゃ焦ったね。そういう影響はあったかもしれません。

ピカソ あー、でもそれは私もあったなあ。
湯パートは他の部屋にも人がいたので、時々誰かが遊びにきてくれるんですよね。らっかは見慣れない機材をたくさん持ってきていたので、他の人からも「あいつはなんか、おもしろいことするらしい」みたいに注目されていて、それを見て焦ったことはありますね。私もそれに応えるものを作らなきゃ、っていう焦り。

らっか すぐ横で制作していたから、お互い意識せざるを得ない部分はあったよね。

ピカソ 今日はもうやめようかなと思った時に、横でらっかが頑張ってると、私ももう少し頑張ろうと思えました。1人だったら切り上げていたところを、2人だったからお互い協力して頑張ろうという気持ちになれましたね。
私は、絵は描けるけど音楽は作れないし、逆も然り。2人のいい部分が影響しあって、初めて交わって形になったのがすごく嬉しかったです。

「自分の好きなように、周りの目を気にせず作品を作っていきたい」

――「アーティストin銭湯」への参加を経て、変わったことはありますか?

ピカソ アーティストin銭湯に参加する前、実は自分の制作で悩んでた時期だったんです。いろんなことを意識しすぎて、自由に絵が描けなかった。描くことをあんまり楽しいと思えないというか、昔みたいにのびのび描けないなと感じていました。
そんなタイミングでこの企画に参加することになったので、これをきっかけに変わりたいと思ったんです。せっかく1ヶ月間好きに絵を描いてもいい空間があるなら、深く考えないで自分がやりたいことを直感的にやっていこうと。
Twitterで日記を載せていたんですけど、それにも反響をもらったり、発信をきっかけにラジオに呼んでもらったりもして、自信になりました。これからも自由に絵を描いていいんだと思えて。自分にとって大きな転機でしたね。

らっか 僕はもう単純に銭湯が大好きになりましたね。これに尽きます。
普段はあんまり、“発想の方法”って考えたことなかったんですよ。でも今回、決められた短い期間で作品作り(作曲・録音・アートワークのデザイン・パッケージ)をするという経験をして、そこをかなり追求できた。さっき話したように、制作に集中する前に銭湯に行くこととか。

――これからの制作活動も楽しみですね。

ピカソ この作品を作ってから、空間を作ることの魅力に気づきました。今までは平面の作品がメインだったんですが、これからは立体や空間作品も作りたいですね。 たとえば家を丸ごと一軒作るとか……。
私の作品は、わかりやすい原色を使っていますが、モチーフは抽象的でわかりにくい。そういう、わかりやすさとわかりにくさのミックスにおもしろさがあるものをこれからも作っていきたいです。

らっか 僕は「アーティストin銭湯」を経て、自分が好きなように、周りをあまり意識しないで曲を作っていきたいという思いが強くなりました。銭湯っていうパブリックな場所で自分の好き勝手にやらせてもらえたからこそ、そう思うようになったんじゃないかなあ。

ピカソ その吹っ切れ感は、私もあるかも。ウケるものを作ろうじゃなくて、自分がやりたいことを追求したいという気持ちが強くなりました。
「アーティストin銭湯」に参加するとき、「好きにやってくれたらそれでいい」と言われたことにすごく感動しました。こんなに自由に、のびのびやっていい場所を1ヶ月も使うことができるんだって、とにかく嬉しかった。本当に参加してよかったです。

腹黒ピカソさんが「アーティストin銭湯」の活動中に書いていた日記はこちら

執筆

べっくや ちひろ

CHIHIRO BEKKUYA

PR・編集・ライター。東京の下町で楽しく暮らしています。お風呂ではつま先から洗う派です。