塩谷さん、「銭湯図解」にはまってる理由はなんですか?

おはなし

2018.2.26

text by かのこ

去年の夏、塩谷さんに取材をしてから約半年がたった。彼女をとりまく環境はざらっとすごい勢いで変わっているみたいだ。そんな彼女は今、サウナを求めて本場、フィンランドに行っているらしい。

思うように体が動かないこともあった、うまく笑えないこともあった、「挫折」という言葉が浮かぶときもあった、全てのことに嫌気がさしたときもあった。自分のHPを視覚化できない彼女はとにかくがんばりすぎる。

ひたすら、好きを追求し、自分の居場所を自分で見つけることのできた彼女はこれからどうなっていくんだろう。この記事が公開されるころには、また日本の、東京の、高円寺の小杉湯に帰ってきている。これからも、いい絵を描くんだろうなぁってそんなふうに思います。

「大事なのは、生活のある場所」

塩谷さんが銭湯に出会ったきっかけは「銭湯 塩谷」で調べるといくらでもでてくる。それを読んでみてほしい。彼女と銭湯の出会いがよく書かれている。

今回は、
---塩谷さん、「銭湯図解」にはまってる理由ってなんですか?
---塩谷さん、これからどうなりたい?
この二つの問いから始まる彼女の思考について注目しようと思っている。

---塩谷さん、「銭湯図解」にはまってる理由ってなんですか?

そもそも、言語化できない部分って世界にはたくさんあると思うんです。自分はそれを学生の時に理解しました。だからこそ、言葉じゃなくて絵で伝えられる部分もたくさんあるなって。例えば、「良い」って感覚は、人にとって異なるし、さらに言えば、「良い」を他人と共有することも難しい。良さを言語化するのは難しい。銭湯の良さも人によっても良いと感じる部分が、異なると思います。だからこそ、銭湯という空間にあるぼんやりとした良さを伝えるために、私ができることは銭湯図解を描くことだなと思っていて。

特に私が良いなって感じるのは、生活が見える場所なんです。建築的にすごいものではなくて、人がいることで出来上がる空間といえばいいのかな。路地、団地、公園、デパートとか。建築って分野では、評価されない場所です。私は建築の分野にいながら、学生のときから考現学にはまっていました。ちなみに、考現学は、現代都市の「人の生活」を研究する学問です。

学問となると少し、難しいような気もするかと思うんですが、全然そんなことないんです。心地良いと感じる部分ってどこにあるんだろう?ってよく考えています。目に見えやすい建物の部分の他にも、人や時間、空間を作る空気感みたいな部分での良さを探していくんです。

体調を崩したことが、銭湯へよく通うようになったきっかけです。銭湯という場所の良さに気づいたのは、考現学の視点が自分にあったからかもしれません。やっぱり建物って「ハコ」でしかなくて。建物の中にある空間、お湯、会話、人との距離、全部に私は助けてもらったんですね。はまった理由は一つにしぼりきれなくて、とにかく銭湯という場所には、言語化できない魅力が山ほどつまってる。そんな場所があることに気づけた私が、この良さを伝えていかなくちゃって使命感が湧いてきました。

考現学視点から、話を進めてましたが、建物としても銭湯という場所は面白いんです。あまり、建築の研究対象にはなっていない銭湯ですが、実はすごく特徴的な建築なんです。光、風が、スッと入ってくるよう窓の位置が決まっていたり、湯船の高さも一緒だったり、すごく興味深い場所でもあります。元々研究体質なので、いつも好奇心が掻き立てられていますね。ここの銭湯はなんでこうなってるんだろう? 歴史的背景? なんて。とことん、考えるくせがついちゃってますね。

---塩谷さん、これからどうなりたい?

まずは、銭湯図解の本をだしたいなぁと思ってます。外国語版でもだしたい。あとは、やっぱり、母校の早稲田大学の先生をやりたい。一番楽しかった授業が「設計演習」っていう授業なんです。その授業を含めて、大学で受けた影響っていまもすごく響いてるんです。物の見方とか考え方とか、考えることの癖がついたのも、このころです。だからこそ、言語化できない「良さ」を伝えることの面白さを軸に授業がしたいですね。

でもね、自分はよく、すごく決断力のある人に見られるんですが、全然そんなことないんです。銭湯で働くことを決めた時も、友人10人に相談してひとりでも反対する人がいたらやめようって思ってました。自分以上に信用できるのは、周りの人だっていつも思ってます。

毎年、浅草の下谷神社でおみくじをひくんですけど、去年のおみくじは、「大吉なんでもうまくいくけど相談だけはした方がいい」って書いてて、今年のおみくじは「大吉くれぐれも調子にのるな」でした。(笑)

多少傷を負っても、周りの期待に応えたいって思う気持ちは人一倍強いかもしれないです。だからこそ、自分のキャパが分からず、急に思考停止みたいなこともよくあります。その時は、銭湯のはしごをして、銭湯図解を描くことに没頭すればいいんだって思ってます。やっと、好きなこととやりたいことが一致したって感覚はありますね。目標も定まってきました。

と笑って、話す塩谷さん。

また、話聞かせてくださいね。って心の中で思ったことは本人に言わず、これからの塩谷さんも楽しみにしています。

執筆

かのこ

KANOKO

編集企画ライティングの仕事。銭湯雑誌「年刊湯気」の編集長。ちなみにまだ発刊してないよ。すきな食べ物はわかめ。